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花コリ2020名古屋会場トーク録『魔王の娘、イリシャ』チャン・ヒョンユン監督

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録画トークその1「長編アニメーション監督として、KIAFA会長として」

仲間と一緒にスタジオを立ち上げ、短編から劇場公開長編へとステップアップしてきたチャン・ヒョンユン監督が、韓国インディペンデント・アニメーション協会(KIAFA)の会長に就任されました。今回上映する『魔王の娘、イリシャ』について、韓国の長編アニメーション制作事情について、たっぷりお話を伺いました。

10月24日(土)13:30の『魔王の娘、イリシャ』上映終了後

ゲスト:チャン・ヒョンユン(『魔王の娘、イリシャ』監督、KIAFA会長)
聞き手:土屋花琳(名古屋学芸大学映像メディア学科専任助手)
通訳:田中恵美(韓→日)、チェ・ユジン(日→韓)

*このトークは、事前に名古屋学芸大学の土屋花琳氏のオンライン授業の中で行われ、録画収録したものを名古屋会場で、『魔王の娘、イリシャ』を上映後、上映しました。

『魔王の娘、イリシャ』
마왕의 딸 이리샤/Ireesha, The daughter of elf-king
2018 / 1:23:00 / 2D, 3D
動物キャラクターがユニークな、家族で楽しめるファンタジー・アドベンチャー。歌手を夢見る女子高校生イ・リシャは、魔王に奪われた友人ジンソクの魂を取り戻すため、妖精界へと旅立つ。そこで、謎のカエルとギターの妖精ロビーに出会い、自らの出自と妖精界に迫る危機を知る……。

土屋:皆さんこんにちは、名古屋学芸大学映像メディア学科専任助手をしております、土屋です。本日は聞き手役として司会進行を務めさせていただきます、どうぞよろしくお願いいたします。
チャン・ヒョンユン監督から『魔王の娘、イリシャ』のお話を伺いたいと思います。

<『魔王の娘、イリシャ』について>

チャン:最初の段階では、この画像のように魔法を使う少女の物語というイメージでした。この作品を作る前、私は『ウリビョル1号とまだら牛』という作品をつくりました。この作品はソウルの街を舞台にして作ったものだったので、次の作品では、もう少しファンタジックなイメージの作品を作りたいと思っていました。

花コリ2015で上映した長編『ウリビョル1号とまだら牛』

『 ウリビョル1号とまだら牛 』
우리별 일호와 얼룩소/ The Satellite Girl and Milk Cow/2013/1:21:02 
宇宙に打ち上げられた人工衛星「ウリビョル1号」ことイルホは、長い間地球を観察しているうちに、人間の心に興味を持つようになっていた。イルホはミュージシャンを夢見る大学生、キョンの歌に惹かれ、彼を探しに地上へと落下。だが地上では、キョンは魔術の力によってまだら牛に変えられ、動物になった人間を狩るオー社長に狙われていた。イルホはキョンを危機から救ううちに人間の心を理解し、2人は徐々に接近していく。彼らの恋の行方は?そしてキョンは、再び人間に戻ることができるのか?

チャン:私は、最初、短編アニメーションの制作からスタートし、長編アニメーションの制作を始めたので、いくつか長編制作ならではの悩みが浮上しました。

過去に制作した短編アニメーション

チャン:長編アニメーションというのは世界的に見ると、まずディズニーを代表とするようなアニメーションのスタイルがあり、また日本のアニメーションらしいスタイルがあります。アニメーションを始める前に、ディズニー映画を見て育った人はアメリカ的なスタイルで作るようになり、日本のアニメーションを見て育った人達は、大体、日本っぽいスタイルのアニメーションを作るようになります。私は日本のアニメーションのようなスタイルのアニメーションを作っていたのですが、そうやって作品を作っていくうちに、ではアニメーションのスタイルとは何だろう、韓国らしさをアニメーションの中に盛り込んでいくにはどうしたらいいかということを悩むようになりました。考えていくうちに、スタイルというよりは、韓国らしい風景や韓国の社会を反映したような内容を作品の中に盛り込んでいけば、韓国らしいアイデンティティーを表現できるのではないか、と考えました。

そういった考えで『ウリビョル1号とまだら牛』を制作したので、次の『魔王の娘、イリシャ』では、現実的なイメージから離れてファンタジックな作品を作りたいと思うようになりました。もともとジブリのアニメーションが好きなので、そういった内容で作品を作ってみたかったのです。
最初の設定ではソウルの街を舞台に、魔法を使う少女の物語、またはファンタジックな世界を舞台に少女が冒険する物語、の2つの方向性を考えていました。前の作品でソウルの街の風景を既にたくさん表現したので、今度は自然の風景がたくさん出る作品にしたいと思いました。
最初はスケッチからイメージを固める作業をしていきました。

初期のイメージ

チャン:つくってみたら、もともとのシナリオとずいぶん違ったものになりました。シナリオでは、エンディング部分に華やかな場面を取り入れていたのですが、制作していたら、前半部分で制作費を使い過ぎてしまい、後半部分で派手な場面を描くのが難しくなりました。
制作費が7憶ウォン、日本円でいうと7千万円ぐらいの低予算のアニメーションなので、この予算でファンタジックなアニメーションを制作すること自体、適切なのか?という悩みもありました。
スタジオの名前が「今じゃなきゃだめ/ Now or Never」でしたので、ともかくやっちゃおうと思って、声優はチョン・ウヒさんという有名な女優さんを起用しました。
作ってみたら、見た人に、クオリティーが低いと言われ、ストレスも感じました。でも見る人は制作費を考慮して見てくれるわけではないので、それはもうしょうがないと思っています。
こういったイメージで作り上げたのですが、スチルのイメージ自体は、私はいいモノであったと気に入っています。
メインスタッフ自体は少数です。50人くらいいなければ、なかなか立派な作品はつくれないのではないかと感じました。
とにかく、一生懸命つくったなとは思っています。最初の長編作品『ウリビョル1号とまだら牛』の制作は6年かかりました。6年間ずっと作っていたわけではなくて、途中で予算がなくなってしまったんです。なので今回は決められた制作費の中で作り上げようという考えが最初から強くありました。内容を変えたりせずに最初に決まった制作費の中で、スピードを重視して作ろうという気持ちがありました。とは言っても制作期間としては2年、後処理などを含めると3年はかかっています。

<韓国の長編アニメーション制作状況について>

チャン:ここに監督になりたいという人がいます。韓国では単純にアニメーション会社ということではなくて、長編アニメーションを作れるだけの会社がありません。そこで、まず長編アニメーションをつくる会社をつくらなければなりません。なので、今、韓国で長編アニメーションを作る会社というのは、たいてい監督本人が社長をやっています。作品をつくりながらも会社の経営をしなければならないので、非常に大変で、常に頭が混乱しています。

画面上で絵を描きながら説明してくれました

チャン:日本だと制作委員会のシステムで作られることが多いですね。何人かのコアなスタッフがいて、その中にプロデューサもいる。韓国では監督が会社をつくってプロデューサーもやらなければなりません。観客は、もちろんそんなことは知らずに見ています。監督はクリエイティブな方に集中できないという話をよく聞きます。とは言え、作るにはお金も調達しなければならないし。こういった問題が長編アニメーションを盛んにつくっていく上で難しい問題でもありますし、その原因は、やはり市場規模の小ささではないかと思います。人口の問題とも言えますね。今、韓国と日本と中国のアニメーションの制作費はほとんど似たような規模です。それはお互いにスタッフを融通し合っているからで、今は中国のアニメーションでも韓国と日本に制作を発注しています。

以前は、日本のアニメーションを韓国と中国のスタッフが下請けでつくっており、その間に韓国のアニメーションを日本や中国のスタッフがつくるという構図が混在していた時期がありました。ですので、制作費がほぼ同じということであれば、市場が大きい方が収益が上がって、システムを維持することが楽になるといえます。ですので、中国が市場が大きいので、中国からたくさんの作品が作られています。


土屋:ご自身の制作における葛藤や、世界観の作り方など、とても勉強になりました。ありがとうございます。

私的には、日本のアニメーションがどういう風に見えているのか、気になりました。チャン監督の作品には独特なキャラクター設定や、ユーモアのある世界観があって、それがイメージとして強いので。
前回の『ウリビョル1号とまだら牛』と世界観がけっこう違っていて、3DCGもけっこう多用されている印象があったので、そういうところもチャンさんなりの新しい挑戦だったのでしょうか?


チャン:アニメーションを作りたい人は、一度はファンタジーをやってみたいという気持ちがあると思います。ヨン・サンホ監督(『豚の王』『我は神なり』『新感染ファイナル・エクスプレス』等)みたいな方は別でしょうけれど。私の場合は、『ウリビョル1号とまだら牛』では現実の世界、ソウルを背景とした、ソウルに暮らす若者という部分を多く描いたので、今度は全然違う世界、ファンタジーの世界を表現したいと思いました。 

CGに関しては、メインのスタッフが不足していて、アニメーションを作る上で必ず必要になってくるのが作画監督、背景の美術監督、それからCG監督と言うふうに私は考えたのですが、私とよく仕事をしているパク・ジヨン監督がいつもは作画監督を務めたのですが、ただこの作品では背景の美術が非常に重要な役割を持ってくるので、美術監督を別に探すことができず、パク・ジヨン監督が美術監督をすることになりました。その時、ちょうどヨン・サンホ監督の弟で、ヨン・チャヌンさんという方がCG専門の方なんですが、お兄さんが実写映画を撮っていたので仕事がなくて遊んでいました。ヨン・サンホ監督のアニメーション制作チームとヨン・チャヌンさんにスタッフとして、私たちの制作に参加してもらいました。ヨン・チャヌンさんがCGだけでなくレイアウトや作画監督の領域まで担当してくれたので、予算が少なかったこともありCG部分も増え、また、そのような役割分担になりました。美学的な選択というよりは、状況に応じて選択するようになってしまいました。


土屋:短編から長編になって、人も増えて役割も増えて、仕事量の大変さが増えて、なるほどと思いました。パク・ジヨンさんは過去の作品のエンドロールにも名前をよく見かけますが、長い付き合いなのでしょうか?


チャン:私は学生の時は一人で作っていたのですが、その時、制作する際に2002年にインターネットで「うまくなくてもいいから、誠実に手伝ってくれる人を求む」と手伝ってくれるスタッフを募集しました。応募した人の中に「自分は、かなり実力があるが誠実まではいかない」というメールをしてきた人がいて、それがパク・ジヨン監督でした。とても相性が合い、お酒もよく飲むし。自分を含めてスタッフ3人いたのですが、夜8時、9時ぐらいまで制作して、その後飲みに行くという、楽しい生活をしていました。今の会社「今じゃなきゃだめ」もパク・ジヨン監督と2人で立ち上げました。2人でよくやってきたし、彼女自身も短編を作ったりWEB漫画を制作して活躍しています。

*パク・ジヨン:花コリでは2009年大阪ゲストで来日、『都市で彼女が避けられないモノたち』、花コリ2012で上映した『ラクダたち』はインディ・アニフェスト2011で審査委員特別賞を受賞、花コリ2019では『皮膚と心』を上映、チャン・ヒョンユン監督が男性の声を担当している。また新作『幽霊たち』はアヌシー国際アニメーション映画祭2020にノミネートした。

土屋:個人制作の短編作品から長編作品に移行したとのことですが、その先に見据えるものが何かありますか?


チャン:最近、大学院の映画学科に入りなおしました。今、実はアニメーションではなくて実写映画を制作しています。今年、作った実写映画が、全州国際映画祭や他の映画祭でもあちこちで上映されています。

『武士もうやめた(仮) / 무협은 이제 관뒀어 / Quitting My Destiny』 2020/25分

チャン: 高麗と朝鮮初期、剣の時代があり、その中心には武士がいた。現代では武士は消滅したかのように思えるが、実は彼らは全国各地で隠れて生活していた。剣法の継承者ジン・ヨンヨンは二十歳になり、武術生活にあき、大学に入ることを決心する。

実写映画を作った理由は、実写は短期間で制作することができるからです。アニメーション映画はだいたい3年以上、韓国では平均5年と非常に時間がかかるので、作っているうちに、最初はこういうものを作りたいと思っていたものが、時間がかかるので、そのうち他の別のものをつくりたいということがでてきてしまいます。実写映画は本当に早く制作できて、長編映画でも2ヵ月あれば撮影を終わらせることができるので、つくりたいと思った話をすぐにつくれるという長所があります。長編アニメーションを作っているときに、他の作品を作りたいと思ったら、それを実写映画で実現できて、いいなと思いました。自分がつくりたいと思う内容の中で、特にファンタジックな内容のものはアニメーションでつくって、そういう要素がないものは実写で作っていくという形でもいいなと思っています。私の個人的な考えですが、二刀流というのがいいかなと思っています。片方はアニメーション、片方は実写で、それぞれやっていくことができればいいと思っています。

チャン: (日本語で)「やっぱり年が年ですから」作品を作るうえで、数字的な欲がでてきました。

(日本語で)「以上です。」


土屋:両刀をやられるというのは目から鱗な話でした。私の中でアニメーションと実写を両方やられる監督って聞かなくて、思い当たったのが、ヨン・サンホ監督の実写映画『新感線ファイナル・エクスプレス』を見た後に、アニメーションを作られたというのを知って、韓国の方々はそういう制作方法を割と柔軟にできるのかなという印象になりました。


チャン:そういう風に柔軟にやっていかざるを得ない状況なのだと言えます。他の長編アニメーションの監督にこの前、会ったのですが、だいたい投資を受けるのに28カ所ぐらいの会社に交渉したのですが、なかなか投資を受けるのがうまくいかなくて、アニメーションに投資をするというのがなかなか難しいようで、アニメーションの作家たちでも実写映画に行かざるを得ないという事情もあると思います。

例えば、韓国のCJエンターテイメントに自分が投資の依頼に行った時、「その企画で何万人動員される感じなんですか?」と聞かれて、「20万くらい?」と答えたら、「私の予想では3万も入らないでしょうね」と言われてしまいました。

なかなか韓国でオリジナルの長編アニメーションを制作するというのは難しいと思います。原作がもともと有名な作品でないと、広報費用が非常にかかるので、なかなか投資に見合う収入が得られないのではないかと思います。

例えば、ディズニーやジブリはその名前だけで信頼されているので、スタジオの名前だけでお客さんが入るような実績があるので、オリジナル作品を作っても大丈夫ですが、自分はそういう作品をみて、こういう作品をつくりたいと思ってきたのですが、自分のスタジオは有名でも大規模でもないし、実績もないので、制作費を集めるのも難しく、集客も難しいです。なので、これからは原作がある作品をやった方がいいのかなとも考えています。

アニメーションを始めた私の仲間たちも長編に挑戦するものの、うまくいかずに消えていってしまうということが何度も繰り返されている状況です。


土屋:日本のアニメーションも、昔からコミックや小説が原作で長編アニメーションになっている作品が、劇場アニメやテレビアニメと増えていて、韓国と環境は違うと思いますが、似たような理由があるんですかね。


チャン:日本でも、もともと原作の漫画が有名な作品、例えば『NARUTO -ナルト-』など、そういうものがたくさんアニメーション化されていますよね。そうは言っても長編作品をつくっていくことは重要だと思います。日本でもテレビアニメが劇場用アニメーションになったりとか、そういうことがありますし、ジブリなんかはオリジナルでも観客が見られる作品になりますね。そういった現象がその国のアニメーション文化の縮図のようなものではないかと思っています。なのでジブリの監督さん方のような、その国のアニメーションの象徴となるような監督やクリエイターがいなければならないと思っています。


土屋:二刀流で実写映画を手掛けるのは、長編アニメーション制作を見据えてのことなのでしょうか?


チャン:劇場用の長編アニメーションをやっていると、どうしてもストーリー上の制約が多くなってきます。家庭用というような家族で見られるストーリーという制約があります。実は、『魔王の娘、イリシャ』を釜山国際映画祭で初めて上映したとき、交通事故に遭い、血が生々しく出るというシーンがあったのですが、観た方が、ネット上で「これは子どもと一緒に見るために作ったものなのか」「血が出るなんて、ちょっと…」というようなコメントがありました。私としては小学校高学年から見てくれればいいと思ったのですが、親御さんの考えはちょっと違うようです。実際にアニメーションを見る子どもたちというのは、4才から6才ぐらいの子のようです。自分が考えいていたターゲットとは差異がありました。小学校高学年から中学生ぐらいの子ども達は、大人向けの作品を見るようです。残忍な場面等を入れたいと思いますが、アニメーションとして、作品に盛り込むのはなかなか簡単なものではありません。日本ですと、そういう刺激的な作品を作るプロダクションもありますし、ネットフリックスでもそういったアクションみたいなものをよく見ますし、現状は、韓国でそういうティストのアニメーションを作るというのは無理があると思います。自分もホラー映画のアイデアがあるのですが、それは実写映画で作ろうと思っています。


土屋:『ソウル・ステーションパンデミック』 もあったので、韓国の長編アニメーションにはそういう印象はなかったのですが、皆にみてもらうにはそういう壁が出てくるんですね。

韓国でもネットで映画を見るという環境が増えることによって何か影響があるのでしょうか?


チャン:これまでのアニメーションは、劇場用のアニメーションやTVアニメーションという枠があって、そのどちらかということで考えていけば良かったのですが、最近は特にネットフリックスやYou Tubeが世界的に大きくなっていますね。その中で、ネットフリックスやYou Tubeを通して見せるアニメーションも増えていますし、作り手側も、そこで見せるのに最適化したアニメーション作品は何だろうかということを非常に考える機会になっていると思います。You Tubeでは尺が短く、ギャグがたくさん入っているものが多いのではないかと思います。またネットフリックスで見せているアニメーション作品というのは子ども向けのコンテンツが非常に多いですね。劇場用のアニメーションでは、できるだけ幅広い観客層に楽しんで見てもらうことを考えていましたが、ネット環境で見せるということになると、どのくらいピンポイントのターゲットに対して面白いものを見せられるかということがポイントになってくるのではないかと思います。


土屋:かなり貴重なお話をしていただけたと思います。社長として、会社を経営しながら制作だけでない苦労や、韓国のアニメーション業界の今後の課題が見えた気がしました。

<質疑応答>

名古屋学芸大学の学生さんたちによる質問に応えていただきました。


質問1:ネットフリックスと連携して、何か制作する考えはありませんか?


チャン:ネットフリックスのアジア圏のアニメーション担当の支部は日本にあるそうなんですね。ネットフリックスがディズニー等の子ども達を対象にしたコンテンツを主力でやるというよりは、アクション物のような日本のアニメーションに関心が多いようです。

韓国の会社がどうやってネットフリックスに企画書等を送ればいいかと、ネットフリックスの人に聞いた事があるんですが、売り込みのメールを1日に1000通ほど受信するので、メールをいちいち読んでられないそうです。ではどうやったらネットフリックスにアプローチできるのかと聞いたところ、「君が有名になれば、こちらからアプローチするよ」と言われました。なので、そんなことを言うようなところと一緒に仕事をしたくありません(笑)。


質問:最初にアニメーションという表現の世界に入ったきっかけは何でしょうか?


チャン:私は実は子どもの頃、ガンダムオタクでして、中学までアッガイ等、モビルスーツに熱狂していました。中学になって大学に行くために勉強もしなければいけないと思い、勉強を始めました。ただ大学に入学してみると、自分の好きなことを仕事にしていきたいと思い、アニメーションの方に関心を持つようになりました。

アニメーション制作というのは非常に難しく大変な仕事だなと思います。私がアニメーションより大変だと思っている職業は、演劇俳優、ドキュメンタリー作家、脚本家の3つです。韓国も日本式でだいたい2Dのアニメーションを制作する場合は、フリーランスのスタッフが集まってプロジェクト形式で進んでいる場合が多いと思いますが、仕事をとにかくたくさんやらなければなりません。学生さんには良い話をしてあげなきゃとは思うけれど、やはり覚悟が必要な仕事だと思います。

または、大きなアニメーション制作会社で、定時退社できるシステムの会社に就職できればいいと思います。でもそういう会社は、あまりないですね。

(日本語で)「やっぱりゲームか!?」

質問2:今、コロナの影響で日本では映画館や舞台は、経済的に閉鎖に追い込まれたり、人数を制限したりなど気軽に映画館に行けるような状態ではなくなってしまいましたが、韓国では映像業界に何か影響はありますか?


チャン:韓国でも映画業界やアニメーション業界へのコロナの影響は大きいです。アニメーション現場の制作環境でいうと、アニメーションというのはミーティングをしなければ進まないというのがありますが、ミーティングの機会を持つことが非常に難しくなりました。またインドネシアやマレーシアに下請けの発注をすることがありますが、そうした所の責任者の方々が行き来することができなくなってしまいました。


質問3:作品を手掛ける上で様々な規制があると思いますが、自身の考えや思いを作品に落とし込むのに意識していることはあるのでしょうか?


チャン:先ほどお話しした、釜山国際映画祭で上映した後、血が出てくる場面を編集して、全部カットしてしまいました。オリジナル作品というのは監督の発したいメッセージや世界観がかなり入っており、大変重要になってくると思います。長編アニメーションでは、アニマティクス(各シーンの流れをつかむために予めまとめた簡単な映像コンテ)というプロセスが大事なのですが、アニメーションに対して、最初にこういう風に作りたいというイメージはそのままなのですが、プロデューサや社長、監督を兼業しないといけないので、例えば、この場面をつくるのにお金が足りるのかとか、この物語で投資を受けることができるのかとか、観客動員数など、たくさんのことを考えないといけないので、頭が非常に複雑になります。本当は、それぞれの専門家が分業してやらないといけないのですが、そういうシステムが整っていないのが問題としてあると思います。

アニマティクス

チャン:その中で大事なことというのは、自分はどうしてこの作品をやりたいのか?どういうイメージを表現したいのか、ということを最後まで守り切るということです。例えば、イリシャでいうと、ある少女が大きい動物と出会う、魔法を使う場面、そういうイメージを具体化するという軸を最後まで曲げないでいく努力をするということが必要だと思います。


質問4:韓国の若いインディペンデントの作家たち、アニメーションを作る学生たちの最近のトレンドや方向性などはいかがでしょうか?


チャン:韓国のインディーズアニメーションも以前に比べてものすごく発展を遂げていると思います。インディーズアニメーションの第一世代(1990~2000代初め)は、民主化運動の中での芸術運動があったので、社会的問題をテーマに取り上げた作品が多かったです。その次の世代になると、個人的なテーマ、個人の内面や個人の生活をテーマにした作品が増えてきて、最近の第3世代は家族をテーマにした作品が増えてきました。その理由として考えられるのは、アニメーションを始めた世代が成長して、40代に差し掛かってきて、家族とかそういうものに関心が向くようになったのが挙げられると思います。こういった変化というのは、実はアニメーションを作ってきた人たちが年齢を徐々に重ねて来たことに要因があるのではないかと思います。

最近の若い人達のトレンドというよりは、アニメーションをやる若い人達の傾向として、もともと、外で人と会ったり、スポーツをしたり、そういうことを楽しむ人達というよりは、ひとりでコツコツと何かやるのが好きな人達がアニメーションを作るようになるのが多いと思います。なので、自分の内面世界を追求したような世界を描くのが多くなるような気がします。これは韓国に限ったことではなくて、日本の若い方々にも共通することなのではないかと思います。

チャン・ヒョンユン
韓国外国語大学卒。韓国映画アカデミーでアニメーションを学ぶ。スタジオ「今じゃなきゃダメ」を設立し、短編『ウルフ・ダディ』(2005)、『わたしのコーヒーサムライ ~自販機的な彼氏』(2007)などで名を馳せた後、長編『ウリビョル1号とまだら牛』(2014)、『魔王の娘、イリシャ』(2018)を発表する。2018年にKIAFA会長に就任。

土屋花琳
2013年に名古屋芸術大学を卒業。同年よりTV業界の制作部に所属し、ディレクター・デザイナー・web制作などを経験した後、映像分野の教育現場に携わる。現在は名古屋学芸大学映像メディア学科専任助手として映像研究・アニメーション制作の活動を続けている。

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