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花コリ2020名古屋会場トーク録「必見!メイキング公開、3DCG作品『つるつる村の理髪店』」

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企画から完成まで5年以上かかった労作『つるつる村の理髪店』のソン・ボギョン監督に、メイキング資料を交えて、その制作過程の全てを公開していただきました。 なお、ソン監督は大学でデザインを学んだ後、2Dアニメーション、3Dアニメーションと進み、現在はCGアニメ界で活躍されています。

10月25日(日)12:00の韓国短編1「To you」上映終了後
ゲスト:ソン・ボギョン(『つるつる村の理髪店』監督)
聞き手:世古哲也(名古屋工学院専門学校メディア学科ゲーム・CG分野教諭)
通訳:田中恵美(韓→日)、チェ・ユジン(日→韓)

つるつる村の理髪店
대머리마을 이발사/A Barber in a Bald Town
2019 / 10:41 / 3D
つるつる頭の村人しかいない“つるつる村”の理髪師と彼の牛。彼らの店は、廃業の危機に瀕している。ある日、牛が舌で頭をなめると、髪の毛が生えることに気付いた! ところが髪の毛は、伸びると草に変わっていき…。

ソン:『つるつる村の理髪店』を制作したソン・ボギョンです。コロナの影響で、皆さんの前で発表はできないと思っていましたが、このように離れていても皆さんの前で発表する機会をいただけてとてもうれしく思っています。

『つるつる村の理髪店』は、主要なアプリケーションとしては、3D CG制作ソフトのMayaとアドビ、テレビペイントアニメーションを使用しました。制作期間は2年プラス4年かかっています。

<話のきっかけについて>

この作品を作るきっかけは自分の脱毛経験からでした。幸い、髪の毛は残っていますが、大量に毛が抜ける時期があり、それがストレスになりました。美容院に行って、髪の毛がとてもよく抜けることを話すと、美容師さんから、「皆さん、同じことを言いますよ」と言われました。その話を聞いて、「皆、髪の毛が抜けて、ハゲになるんじゃないか? そうなると美容院は潰れてしまうんじゃないか?全員がハゲになったら、カツラをかぶる人はいなくなるんじゃないか?」、「もし皆がつるつるになった村に美容院があったら、なぜその店の主人はお店を閉めないのか?」と考え、皆がつるつるになった村の理髪店の理髪師の話を思い付きました。

また、個人的に擬人化されて動く動物のキャラクターが出てくるのが、アニメーションのとても大きな魅力だと思っていて、今回の短編には動物のキャラクターを必ず入れようと思っていました。子犬やクマのようなキャラクターは既にたくさんあるので、新鮮に感じられる動物のキャラクターを考えていました。どういう動物がいいかと考えている時に、「이발소 理髪所」という単語を思いつきました。「牛」という韓国語が「소(ソ)」というのですが、理髪所の「所」もハングルでは同じ「소(ソ)」と書き、読み方が同じになるんですね。なので、「理髪所」という看板の下から牛がでてきたら面白いのではないかと思いました。

牛について調べたところ、牛と髪の毛について意外と関係が深いことが分かりました。韓国では髪の毛が寝癖のように跳ねてしまっていることを「牛が舐めたみたいだ(소가 핥은 것 같다)」という表現をします。英語でも似たような表現でcowlickという単語がありました。日本語でも似たような表現があるのか気になりますね。

また、牛のよだれには特別な成分があり、牛に舐められた髪は固まって何日間かそのヘアスタイルを保つという言い伝えがあります。こうした関係から、牛をキャラクターにすることに決めました。

また、昔の新聞に面白い記事があって、当時の西ドイツのある美容師が、自分の飼っている牛に、お客さんの頭を舐めさせて頭髪の治療をしたという記事で、30歳で毛が抜けてしまったジョンさんに定期的に牛の舌マッサージをしたところ、髪の毛が生えて来たという話でした。これを読んで、「これだ!」と思いました。この記事自体が、とても面白くて。たぶんやっている本人たちは、ものすごくまじめにやっているんだろうけど(笑)。どういう風に舌でマッサージするのか、どうやって牛のよだれから栄養分が伝わるのか…(笑)。これなら面白い物語になりそうだと思いました。

<話づくりについて>

短編の作品の中には、コンセプトだけで最後まで面白さを引っ張るような作品と、あるいは映像の魅力だけで作品を見せるものがありますが、今回は、物語の構造がしっかりと見える作品にしたいと思いました。

次に話の展開を考えることになるのですが、完全にオリジナルな話なので、全く制約がなく自由に想像できるので面白いのですが、制約がないとなると無限に話が広がることになり、選択肢が広がりすぎて逆に難しかったです。話の展開によっては、物語のスタイルが変わるかもしれないし、キャラクターの性別等、キャラクターの内容も変わってくるだろうということも同時に考慮しなければなりませんでした。

美容師が物語の中でいろいろ選択する場面がありますが、その選択ができるだけ現実的であるといいなと思いました。自分が同じ状況ならどうするか、また周囲の人にも、同じ状況ならどうするかを聞いて回りました。素材自体は面白くて非現実的ではありますが、あまりにも童話のような展開にならないように、物語の展開自体は現実的なものになるようにしたいと思いながら話を作りました。

エンディングをどうするかを一番悩みました。葉っぱが生えて来た人々が、それを喜ぶんじゃないかと想像したときにエンディングの方向性を掴めたのだと思います。実際に、一番悩んだのは、牛を本当に殺していいものか?ということでした。皆で焼肉をしているところは、牛が死んでしまったかのように見せる演出でした。多くの人がみて、こういうエンディングで良かった、と思うようなエンディングではないかもしれませんが、実際に人が選択したことというのは、もう取り返しのつかないことであると思います。さきほども申し上げた通り、エンディングも現実的な物語のエンディングとして、受け止められればいいと思い、こういう終わり方にしました。

<理髪店の主人のデザインについて>

まず理髪店の主人の特徴を決めて、それに合うデザインをしました。作品を3Dで作るのはこれが初めてだったので、最初は2次元の表現でデザインしていました。3Dの肉体へのイメージが足りないと思い、粘土を使って実際に人形をつくってみたりしました。それから粘土で作ったものをみて2次元で紙に描いてみたりもしました。それをもとにモデリングもしてみましたが思うようにできなかったので、もう一度2次元でイメージを掴もうと思い、2Dで描いて最終的にデザインを固めました。そのあと、もう一度3Dのモデリングをやってみました。自分はもともと2Dをやっていたので、3Dがしっかりした左右対称になってしまうのが、嘘くさく感じられました。キャラクターというよりは人間っぽくなってしまったので、よりキャラクター感が出るように微調整していきました。リギングをする時に、面倒だとは思いましたが服のシワなどを非対称になるように細かく加工していきました。主人の着ている白衣を前を開けておくと、パラパラ風になびいたりする部分がアニメートする時に面倒だと思い、前のボタンを留めるというデザインに変えました。顔は対称にしておくと、演技をする際に難しいので、リタッチをして対称にならないようにしました。

理髪店主人の初期デザイン

理髪店の主人には、頭の毛のデザインが、普段の時と葉っぱの毛になったときのデザインも必要だったのですが、髪型だけでも笑えるようにできたら面白いと思い、笑えるようなデザインも試してみました。髪が生えて来た時と、葉っぱが生えた時の髪型は同じ方がいいと思ったので、同じ雰囲気にしていますが、今思えば、もう少し面白いデザインのまま進めても良かったんじゃないかなと少し後悔しています。また理髪店の主人の頭の形はもともと角ばっていたのですが、3Dで表現した際に違和感があったのと、スキンヘッドを表現するには丸い形体の方がいいと思い、丸くしました。

髪の毛デザイン
最終的な理髪店の主人のデザイン

<牛のデザインについて>

理髪店の主人を直線的なデザインにしたので、牛は曲線的なデザインにしようと思いました。3Dというのは2Dよりもどうしても制約が多くて、硬いイメージなので、牛は3Dでの制作というのを一旦、脇に置いて、デザインしてみました。

牛の初期デザイン

最初に考えたデザイン(上図)はあまりにもキャラクタライズされたデザインだったので、もう少し牛らしい牛に変えたのですが、鼻が豚みたいになってしまったので、鼻の部分を修正して最終デザインに持って行きました。3Dにすることを考慮せずにデザインしたためか、スケッチをもとにモデリングをしたら、別の牛になってしまいました。またこのデザインだと手足を動かすのに問題が生じると思い、やり直しました。2次デザインで首に鈴をつけていたのですが、動かす時に体にめり込んでしまいそうなので、外すことにしました。

牛もヘアスタイルを変えてみようと思い、いくつかアイデアを出しましたが結局、無難なものを選びました。これももう少し面白味のあるヘアスタイルにすれば良かったかなと後悔しています。

牛の体全体に、ぬいぐるみのように毛を生やして、ベルベットみたいな表面にしたかったのですが、初めてやったのでなかなか思うようにいかず、レンダリング時間も非常にかかってしまいました。UVラインの問題もあり、今回はこの表現をあきらめました。今なら技術も進歩したので、できるかもしれませんが当時はできなくて、毛のない牛になりました。

牛は特に腕のリギングに神経を使いました。人の腕のように肘で直角に曲がるのは牛に合わないと思い、肘が柔らかく曲がるようにリギングを調整しました。

<背景について>

当初は漫画っぽいデザインで進めていましたが、ストーリーを現実的なものにしたので、背景もリアルなものにしようと思い、私がよく知っている昔ながらの床屋さんというイメージを基盤にデザインを進めました。部屋は本当にありそうな部屋のようにデザインをつくっていきました。

室内はカメラのアングルやキャラクターの動きを考慮してモデリングしていきました。村の構造も考えていったのですが、ストーリー上、広場が必要だったので、広場をつくり、理髪店の通りのイメージも、建物が皆同じに見えないように、それぞれ違って見えるようにデザインしていきました。

<アニメートについて>

韓国コンテンツ振興委員(KOCCA)という団体が韓国にあるのですが、制作支援事業にこの作品が選ばれて、支援金を受けることができました。そのお金で外注を使うことができたので、アニメートの30%を内部スタッフで、70%を外注で行いました。外注をすれば、あっという間に終わると思っていたのですが、外注に全部いちいち説明をしなければならず、信じられないくらいダメな物が送られてきて、修正要請をしたものの、結局、内部スタッフでやり直すことになった場面もありました。

当時は自分が3Dについてよく分かっていなかった部分もあったので、こう直してほしいという指示を出すのが難しいというのもありました。アニメートが難しそうなところは、実際に動いてみたものを撮影した参考動画を資料として送ったりもしました。この動画を撮影するときが、とても楽しかったです。アニメートにも役に立ちましたが、それよりもむしろ、キャラクターたちがどういう感情であったかを実際に感じることができるいい機会でもありました。

<ライティングについて>

シチュエーションごとにキャラクターの感情が表現できるように、ライティングには非常に気をつかいました。最初はV-Rayを使い、中盤からはトーンレンダーを使いました。Maya上で思うようなライティングの感覚が得られなかったので、後半はパスで抜いて合成をしました。

<アフレコについて>

アフレコについては、なかなか録音できるような静かな場所がなくて、エレベーターの中なら音がしないんじゃないかと思い、エレベーターの中にこもってやったのですが、実際には音が響いてしまって、よくありませんでした。制作支援をいただいてからは、録音スタジオを借り、そこで録音しました。大衆の声は、私たちスタッフの声を入れ、子ども達の声は、自分の甥っ子姪っ子に録音してもらいました。

<なぜ制作期間が6年もかかったのか>

なぜ制作期間が6年もかかったのかというと、2014年に一度完成していたのですが、制作支援を受けた場合、その翌年までに完成させなければならず、急いでつくったので、クオリティーがあまりよくありませんでした。

この作品の直前に作っていた作品があるのですが、その時は1年以内に作品を作らなければならなかったのに、ストーリーを書くのだけで10ヵ月くらいかかってしまい、2ヵ月しか具体的な制作期間がなくて、2Dの作品ではあったのですが、それでも2ヵ月はかなり厳しかったです。その時はどうしても期間内に完成させたかったので、1週間に一回しか家に帰らない状態で作業をして何とか完成させました。クオリティーはあまりいいものではありませんでしたが短い制作期間で作品を完成させたという達成感がありました。ただそれがスクリーンで上映されたのを見て、とても恥かしく思いました。2ヵ月しか制作期間もなかったし、本当はもっとうまくできるのに、観客はスクリーンに映ったものしか見られないからです。なので今回の作品は同じようなことをしてはいけないと思いました。ですが、その時点で私も就職をすることになり、一緒に作業していた仲間たちとも別れなければならなかったので、制作を進めることができませんでした。週末や公休の日を使って、自分の家で少しずつ作業を進めていったので、どうしても時間がかかってしまいました。

この後、2014年に制作したものと2019年に完成したものとの比較映像を見せていただきました。
ライティングや、部屋の中の小道具や装飾品が微妙に違ったものになっていました。

<質疑応答>

*監督のプレゼンテーション後、名古屋工学院専門学校の学生さんとの質疑応答がありました。

名古屋工学院専門学校の授業の様子

質問1:監督の気に入っているシーンは?また、そのシーンで力を入れた部分や注目してほしい点は?

ソン:牛が人の頭をぺろ~んと舐めていくシーンがとても気に入っています。
牛の肩の部分が、角ばって見えるのが嫌で、曲線的に柔らかい形に表現ができるようにとても気を遣いました。そんなところは誰も目がいかないとは思うんですが(笑)。

質問2:もともと2Dで制作していたのを3Dにしたということで、3Dに移行したことで一番苦労した点はありますか?

ソン:全部です(笑)。全部大変なことは大変だったのですが、思ったより、2Dと3Dはそんなに違うものではないと言うことが分かりました。キャラクターや背景、ライティングについて神経を使っていくというのは2Dでも、いいキャラクターやライティングというのは全く同じことなので。ただ技術的に3Dソフトを使いこなしていくことは非常に大変なことでした。シーンによってはとんでもないデキになっているところもあります。

質問3:最初のシーンで、牛が主人の手を舐めたら産毛が生えてると気づくシーンがありますが、毛の表現はどういう風に作っているのでしょうか?

ソン:リアルな産毛を作りたかったのですが、できなかったので、モデリングを作って、1本1本植えこみました。作業自体は、思ったよりすぐできました。最初の産毛がそんなに量が多くなかったので、一日もかからず終わりました。

<最後に学生へのメッセージ>

ソン:会社に就職すると、会社によって違いもあるけれど、自分がやりたいと思うほどにはできなくなるので、コロナ禍で大変な時期ではありますが、学生のうちに勉強も遊びも一生懸命やって、できることを最大限やって欲しいと思います。また自分も、そういう風に頑張りたいと思います。

作品の公式facebookページにも、メイキング資料がたくさんアップされているので、ぜひご覧ください!

ソン・ボギョン
弘益大学卒。ハンギョレ文化センターでアニメーションを学び『Recycle Dance』(2009)を制作。その後、韓国映画アカデミーに入学し『Take a deep breath』(2011)を、更に中央大学先端映像大学院で『つるつる村の理髪店』(2019)を制作する。現在、CGアニメ制作会社ICONIXでキッズ向け短編シリーズ「ポンポン ポロロ」を手がけている。

世古哲也
電波学園 名古屋工学院専門学校 メディア学部メディア学科ゲーム・CG分野教諭。ゲーム・CGアニメーション・CGデザイン教育に携わっている。国際CGアニメーションの大会である「ASIAGRAPH Reallusion Award 2018」で、グランプリを受賞し、世界一に輝いたチームの顧問。

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